韓国医療ツーリズム視察

ソチオリンピックが盛り上がる中、韓国の自治体等の招きで韓国医療ツーリズムの視察会に同行させていただく機会を得ました。今回は医療ツーリズムの中でも特に「韓医学(韓方)」(※1)の理解とそれに関わる国や自治体、医療機関、教育機関、観光業界等の動向について学ぶことを目的に訪韓しました。

ソウル市、牙山市、釜山広域市などの韓方医院、大学の附属病院にて講義及び体験治療を受けるとともに大学、観光公社、行政の関係者から韓国の医療ツーリズム事情、韓医学の優位性等についてレクチャーいただきました。また、同行いただいた韓国、日本両国のコーディネーター、医療通訳の方からも最新の動向をヒアリングさせていただきましたのでその一部を報告させていただきます。

肺は生命そのもの

初日に訪れたソウル市の扁康韓医院では慢性的なアトピーや鼻炎、喘息、肺疾患などについてソヒョソク院長に講義いただきました。世界の死亡原因第4位(WHO)であるCOPD(※2)のメカニズム、アトピーが悪化するメカニズム、肺と皮膚の相関関係、扁桃腺の重要性、ステロイドの副作用などについて詳しく解説いただきました。肺は生命そのものであり、肺を健康な状態に保つことが皮膚の健康、そしてカラダの免疫力を高め慢性的な疾病を治療するキーファクターであるということを強調しておられました。アトピーの原因と治療法について非常に興味深い内容でした。

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非常にわかりやすくユニークなスライドをつかったソヒョソク院長の講義。「私達はなぜ死ぬのでしょうか?それは呼吸できなくなるからです」
肺の健康がいかに大事かを学びました。

韓医学のエビデンス

宿泊した牙山市の温陽温泉では、ホテルにて大田大学校天安韓方病院の韓医師(※3)より韓医学と西洋医学の違い、韓医学の特徴や効果について様々な研究結果を中心にレクチャーいただきました。国際的なジャーナルにも多数発表しており日本人や欧米人が重視する「エビデンス」づくりに積極的なのが印象的でした。

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韓医師によるプレゼンテーション。メディアにも積極に出演しています。

四象体質

2日目、午前に訪問した大田大学校天安韓方病院は、大学付属の韓方医学病院であり自治体や観光公社等と連携し韓医学を中心とした医療ツーリズムを推し進めています。ここでは四象体質(※4)のコンセプトに基づいた治療(鍼、灸、カッピング等)を体験。地元メディアの取材もあり、最近減少傾向にある日本人観光客の誘致に高い関心があることが伺えました。
午後からは釜山広域市に移動し、「釜山韓医師会」で釜山の韓医師よりレクチャーを受けました。グローインペインの治療にも韓方は有効だということを話されていたため質問したかったのですが、時間がなく聞けず残念でした。。
個別の病院だけでなくこのように医師会のような業界団体全体で医療ツーリズムを発展させていこうとする意欲を強く感じました。

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サーモグラフィー(IRIS-XP)で評価

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高価な漢方薬がびっしり

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リハビリテーション室。韓国でもレッドコードが多く見られました。

西洋医学と韓医学の共存

3日目は釜山にある東義大学校付属韓方病院を訪問し主に外国人の受け入れについてレクチャーを受けました。この病院は一つの病院内で西洋医学と韓医学両方を受けることができるのが特徴で、患者数は7(西):3(韓)で医師の数も同じような割合でした。検査室には最新のPhilips社製のCT,MRI,PETが完備され韓医学で治療している場合でも必要に応じてこのような検査を受けることができるとのことでした。そこにいるだけでも元気になりそうな調剤室では大量の漢方薬が患者別にパッキングされていました。当院では自分の意志でどちらを受診するか決めることができ、医師に相談し途中で変更したり必要な検査を受けたりすることが可能とのことです。このようなシステムは一般的な日本人にも受け入れられやすい印象を受けました。資料の外国語表記なども充実していました。

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充実した検査機器

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漢方を煮だす

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患者別に配合しパッキングされた漢方薬

丁寧な問診と鍼灸治療

午後からは同じ釜山市内の神通韓医院を訪問し治療を体験しました。脳波や筋コンディション等の評価を専用のデバイスでチェックしてもらいその評価をもとに非常に丁寧な問診を受けた上で鍼、お灸などの治療を受けました。通常はさらに症状にあわせて漢方薬を処方され必要な期間飲みます。サッカー韓国代表チームにも帯同したことのあるという院長に「ドーピングコントロールで気をつけてることは?」という質問に「ここにある漢方薬はひっかからないから大丈夫」という回答にはびっくりました。。。ジョークですかね?

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ストレス度などをチェック

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体組成計はどこにいってもInBody(Biospace社製/韓国)

韓国の医療ツーリズム

韓国では2007年に「韓国国際医療サービス協議会」が発足し、2009年には新成長動力課題に「グローバル・ヘルスケア産業」が含まれ医療ツーリズムを国家戦略として本格的にスタートさせることとなりました。現在アメリカ、ロシア、中国、日本、モンゴルなどを中心に10万人以上の患者を海外から受け入れており、昨年韓国観光公社が発表した「2013年韓国医療観光総覧」によると韓国に医療目的で訪れる外国人観光客が2020年には100万人に迫り、3兆5000億ウォン(約3200億円)を超える利益を生み出すとの見方を示しています。近年は中国人が増えており、印象としては美容整形を受ける中国人が急増しているとのことでした(コーディネーター談)。ただ、ロシア人が比較的高額な医療を受けるそうです(医療通訳談)。

医療通訳コーディネーターの存在

医療ツーリズムを推進する上で重要なポジションの一つになるのが医療通訳コーディネーターです。ピーター・F・ドラッカーは「病院のもっとも重要なミッションは安心を与えることである」と言っています。国内で医療を受けるだけでも不安要素は大きいですがそれを外国で受ける、しかも母国語で医師とのコミュニケーションがとれないとなるとその不安は益々大きくなります。この不安を取り除き最適な医療サービスを提供する道先案内人が医療通訳コーディネーターとなります。今回韓国の医療ツーリズム事情についてお話を伺った医療通訳コーディネーターのチョ・ミジョンさんが下記の日本語-韓国語医療通訳用の学習本を出版されていて拝読させていただきました。日本語、韓国語両方で表記されていて「ずきずき痛む」など微妙な表現もありすばらしい内容でした。日本でも働かれていたというミジョンさんからお話を伺う中で、ただ単に通訳できるだけでなく諸外国の医療事情、文化などを十分に理解している医療通訳コーディネーターの存在が益々重要になっていくことを強く感じました。

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국제의료관광 실무일본어 1 병원 일본어 입문편(国際医療観光 実務日本語1 病院日本語入門編)
국제의료관광 실무일본어 2 진료과별 일본어 심화편(国際医療観光 実務日本語2 診療科別日本語深化編)

日本人が望むもの

韓国で受けることのできる美容や医療サービスは日本でも受けられないわけではありません。しかし、まず美容に関してはその料金が圧倒的に安いことがあげられます。次に、医療に関して特に韓医学に関しては、西洋医学と東洋医学(韓医学)が共存し研究と臨床が進められています。韓医師になるためには6年課程の大学を卒業しなければなりません。日本にも東洋医学があり、鍼や灸の治療も受けることができ優秀な治療家も存在します。ただ、それが制度として国民誰もが自分に必要な治療にアクセスできているかといえば十分ではありません。そのようなことから韓国を訪れた日本人から「日本では治らなかったものが韓医学で治った」という言葉がでてくるのだと思います。日本においては「自分に必要なまたは最適な治療がどこにいけば受けられるのか?」この部分に課題があるように感じます。

アジアの医療ツーリズムそして日本

アジアではマレーシア、シンガポール、インド、タイなどがこの分野ではリードしています。日本では2010年に閣議決定された”新成長戦略”の中で「国際医療交流(外国人患者の受け入れ)」があげられ、高度医療に力を入れた医療ツーリズムを推し進めようとしている自治体もあります。各国注力している医療サービス(美容も含む)が異なることと自国民に対する医療制度の違いなどもあり安易に比較することはできませんが、単純にインバウンドの医療観光者数だけで見れば日本はこの分野では周回遅れの感は否めません。医療法や高額な治療費などの問題も有り、後発の日本が医療ツーリズムを国家戦略として推進するためには課題も多いのが現状です。そんな中で活路があるとすれば他国と比べて圧倒的に多い高性能のCT,MRI,PETの保有数を活かした検診です。すでに旅行会社や病院が主体となり検診ツアーも始まっており、特に観光資源に乏しいような地域でも医療技術を武器に外国人を呼びこむことができれば地域の活性化に繋げることができるでしょう。しかしながら、韓国やその他アジア諸国の医療ツーリズムの取組みの本気度を見ると中途半端な取り組みでは太刀打ち出来ない印象を強く受けました。

昨年大阪にて開催された韓国政府(保健福祉部)主導の医療ツーリズムのセミナーがきっかけで企画された今回の視察会。短い期間でしたが韓医学の優位性、韓国の医療ツーリズムの現状を見聞しそれに関わる最前線の方々からヒアリングでき大変有意義なものとなりました。医療という点以外にも文化的な学びも多かったです。計画通りに仕事を進めることにプライオリティーをおくことが重視される日本に対して、トップが方針を決めまずはドライブし途中で最善を見つけようとする韓国のビジネススタイルの違い。また食の面では「薬膳」の素晴らしさに驚かされました。釜山の某料理店で食べた薬膳はこれまで海外で食べた料理の中では最高でした。今回の視察を機に日本または海外への医療ツーリズムやスポーツツーリズムのサポートに活かしていきたいと思います。
この企画にご尽力頂きました前田ライフマネジメントの前田様はじめ韓国・日本両国の皆様にお礼申し上げます。ありがとうございました。


※1:古代中国の医学を基礎に、韓国の風土や気候、韓国人の体質に合わせて発展してきた伝統医学で「韓方」ともいう。
※2:慢性閉塞性肺疾患。日本での潜在患者は530万人以上と推測されているものの治療を受けているのはそのうち5%未満と言われている。
※3:韓方専門医師の略で、韓国の伝統医学である韓医学を実践する医師。
※4:四象体質医学は体質を4つに分類し、それぞれの体質的な特徴を捉えた治療を施すコンセプト。

[ 参考資料 ]
経済産業省(2010)国際メディカルツーリズム調査事業報告書(2014.02閲覧)
厚生労働省(2010)「慢性閉塞性肺疾患( COPD )の現状について」(2014.02閲覧)
日本政策投資銀行(2010)「進む医療の国際化~医療ツーリズムの動向~」(2014.02閲覧)
大阪府、泉佐野市(2011)「国際医療交流の拠点づくり「りんくうタウン・泉佐野市域」地域活性化総合特区」(2014.02閲覧)
辻本千春.「メディカル・ツーリズムにおける推進戦略に関する考察 : 日本と韓国の比較論」. 日本国際観光学会論文集. (18), 49-54, 2011-03
WHO.Chronic obstructive pulmonary disease(COPD).(2014.02閲覧)

[ 協力 ]
金鐘湜様/Charis Medical Service
前田紳詞様/前田ライフマネジメント
趙美貞様/Hucare Co.,Ltd Blog


2014-03-02 | Posted in 見聞Comments Closed 

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